●生き物好きが集まる課題解決型のベンチャー企業「イノカ」
気候変動やプラスチックごみによる海洋汚染など、さまざまな要因によって変化している海洋環境。そういった海の課題解決に取り組んでいる企業・団体があります。そのひとつが、ベンチャー企業の「株式会社イノカ」です。都内にある本社には、色とりどりの魚とサンゴが織りなす美しい水槽(アクアリウム)が展示されています。「生き物が好きな人たちが集まっている会社で、“環境移送技術®”をコア技術にして、教育イベントや研究の受託を行っている」と紹介してくれたのは、取締役でチーフ・アクアリウム・オフィサー(CAO)の増田直記さん。共同創業者の増田さんは、CAOという肩書きのようにアクアリウムの最高責任者でもあります。
●水槽に海を再現する“環境移送技術®”とは?AI・IoTも活用した最先端の独自技術
環境移送技術®とは、水槽の中に特定の自然環境を高度に再現し、制御・解析できる状態をつくり出すというもの。例えば、サンゴ礁とさまざまな魚が泳ぐアクアリウムでは「デバスズメダイという魚を水槽に入れることで(サンゴの)中に入ってくれたりすると、水の淀みを消してくれる」と増田さんが解説しているように、閉鎖環境の中でどんな“生物”を組み合わせるのか、水質を決める栄養塩などの“化学”的要素、そして、光や波、水温などの“物理”的な変化までさまざまなパラメータを調整しながら、また、AIやIoTも活用しながら水槽の中に自然環境をつくり出します。イノカは、この環境移送技術®を使って、サンゴ産卵で世界初の成果を2022年に打ち立てています。それが、年に1度6月にしか産卵しないサンゴを人工海水を用いた閉鎖系水槽で飼育し、産卵時期をコントロール。その結果、真冬の2月に産卵させることに成功したのです。さらに、この環境移送技術®によって、さまざまな海洋研究が手軽にできるようになったといいます。「例えば、海に入れて大丈夫かどうかわからないものを入れるのは危険。しかし、水槽に再現した海であれば、何か資材や薬品を入れてみた時の影響の評価を行える。ここでそれをできるようになったのは大きい」
●リアルな海を越える体験を提供!サンゴをにおって触る教育プログラム
また、イノカではこういった研究だけではなく、教育プログラムにも力を入れていて、子どもたち向けに「サンゴ礁ラボ®」というイベントなども行っています。増田さんは「子どもたちにサンゴを触ってもらったり、においを嗅いでもらったりという、沖縄にいてもほとんどできないような体験が環境移送技術®によって実現できている」と胸を張ります。
●イノカが描く未来──つながりから社会課題を解決しイノベーションを創出
「イノベート(INNOVATE)」と「アクアリウム(AQUARIUM)」を掛け合わせて社名とした「イノカ(INNOQUA)」。これからどんな未来を描いていくのでしょうか。増田さんは「イノカはいろんな種類の生き物が好きな人が集まってくる会社なので、生き物が好きな人、それについて研究したい研究者、それらを使って何かしら社会的な課題を解決したい企業や地域の方達がつながって、何かしらのイノベーションが生まれているような状態がつくっていけたらいいと思う」
“好き”から始まった技術が社会を変える力になる。イノカの挑戦が豊かな海の未来をつくり出していくはずです。