若手落語家・三遊亭わん丈さんが披露している演目のひとつが、『拝啓 浦島太郎さん』。これは、プラスチックごみなどの海洋ごみによる海の汚染をテーマにした、わん丈さんの創作落語です。
そんなわん丈さんに、海の落語を披露するようになったキッカケや想いを伺ってきました。
■キッカケは立川こしら師匠
━━海の落語をつくったキッカケは何だったのでしょう?
海の落語の仕事をくださった方が、立川こしら師匠という凄い尊敬している大先輩なんですけど、そのこしら師匠が「新作落語をつくってやってくれないか。海のごみ問題という題材まで決まっている」という風におっしゃって。明日の古典落語になる可能性があるものを創作する人って、今、落語家が1,000人いるって言われている内100人いるかいないかと言われているんです。その中の1人として僕を選んでもらえたというのが単純に嬉しくて。それで、こしら師匠のために頑張るじゃないですけど、この世界の先輩に期待してもらえるのは、とても嬉しいことだったので、海の落語を創作したんです。
■「情報」と「飽きさせない」を重視
━━海の落語で重視していることは何でしょうか?
恥ずかしながら、僕は海で起こっている問題をほぼ知らなかったんです。それで、この海ごみの問題を聞いた時に、笑っていられない話なんですけれども、興味深いという意味で大変に面白くて。そこで、落語ってバカバカしく笑えるイメージがあると思うんですけど、どっちかというと、そういった笑いを入れるというよりも、情報量を多くして正確に伝えようと思いましたね。それでも十分に気が惹ける題材だと思ったので。
ただ、お子様に聞かせるということで、飽きさせないようにしようと。お子様って、数十秒に1回飽きてしまうポイントが来るんですよ。だから、展開を次も聞きたいと思ってもらえる楽しめるようなものにしようと心がけています。
■落語は海の問題を聞いた人の心に深く刻める
━━海の落語の魅力は何でしょうか?
海で今起こっている問題って、知らない人が結構いると思うんですよね。ただ、海のことを知らない人は、ほとんどいないと思います。だから、「海」と言ったら、みんな海を想像できるので、落語家としてはこの題材は有難い。さらに、落語は、お客様が想像する分、頭を使うんですけど、自分の体の中に僕らの言葉を落とし込んで世界観をつくるから、深く心に刻まれるんですよね。だから、海の問題を強く自分達の中に刻み込んでもらえると思います。それが海の落語の魅力かなと。
■落語を通して海のごみ問題を気に留めて欲しい
━━海の落語を聞いた人にどう思ってもらいたい、何を考えてもらいたいですか?
とにかく気に留めてもらいたいですね。というのも、海ではないんですけど、僕の生まれ故郷の滋賀県というところには、日本一大きな湖の琵琶湖というのがありますが、僕が生まれ育った約30年前は、とても汚かったんです。それが今、久しぶりに帰ると、もの凄くキレイになっていてビックリするんですよ。それは幼い頃に、今の僕がやっているように、色んな大人の方から、どうやったら琵琶湖がこれ以上汚くならないかと教えて頂いたおかげだと思うんですね。かと言って、僕達がごみを拾いまくったという記憶はないんですけど。ただ、僕も友達もごみをポイ捨てている人を見たことないんです。だから、気に留めるというのが、凄く大事なことだと思うので、そのキッカケになってくれればいいなと思っています。
■“お返し”するために海の落語を続けていく
━━最後に、わん丈さんが今後、海の落語についてやっていきたいことをお聞かせください。
僕達が先人からやって頂いたことを今度は返していく番かなと思っているので、学校寄席など、この仕事も続けていきたいです。とてもやりがいがあって有難いことですし。本当にちょっとした努力で海もキレイになると思います。そういう大切なことを植えつけるというのは大事で、それぐらいだったら僕にも出来るんじゃないかなって、落語もお手伝い出来るんじゃないかなって。それに、学校寄席などで朝から働いていると、なんか清々しいんですよね。あと、明日も子ども達の前で落語するんやと思ったら、深酒もなくなりますしね(笑)。
「落語は聞いた人の心に深く残る」というわん丈さん。そこで、とあるお願いをしてみました。それが、この取材で語ってくれた「海の落語を披露するようになったキッカケや想い」を、落語で披露してもらうというもの。わん丈さんは、この無茶なお願いを快く引き受けてくれ、見事な落語を披露してくれました。そちらはぜひ映像でご覧ください。