将来的に絶滅する危険性があると、レッドリストの準絶滅危惧種に指定されているのが、ゼニガタアザラシ。見た目はカワイイが、北海道えりも町の漁師にとっては厄介もの。「漁を離れたらカワイイなと思いますよ。しかし、そうも言っていられない。生活がかかっていますから」と話す。
実は、北海道のサケの漁獲量が減っている原因のひとつが、ゼニガタアザラシだという。えりも町の漁業関係者の石川さんは、「アザラシに少なくともサケが1日50匹ぐらい食べられています」と嘆く。実際に、ゼニガタアザラシがサケの定置網に侵入している姿がカメラでも捉えられており、また、データを見てみても、昔に比べてアザラシによるサケの被害が増えている。これは、北海道を取り巻く海の環境が変化し、ゼニガタアザラシの数が増えているためと見られている。しかし、ゼニガタアザラシは準絶滅危惧種に指定されているため、無闇に駆除が出来ない。とはいえ、サケも守らなければならない。
そこで、ゼニガタアザラシと漁業の共生を図ろうと、環境省では様々な対策をしている。そのひとつが、定置網の改良。この定置網は、サケが入る部分に格子状の網を取り付け、アザラシの侵入を防ぐというもの。試行錯誤の結果、18cm×18cmの目の網だと、アザラシを防ぎつつサケは通れるそうで、対策を進めている。
また、この網には、もうひとつ仕掛けがある。網の入口にアザラシが入りやすいが、出にくいという仕掛けをつくり捕獲。これによって、個体数が増え続けることを防いでいるそう。
一方で、網走市には、ゼニガタアザラシとの共生に向け、全く新しい仮説を立てた研究者がいる。それが、東京農業大学生物産業学部 小林万里教授。小林教授は「アザラシがいるところには、大抵の場合、昆布が繁茂しているところが多いため、アザラシが昆布の再生や繁茂などに影響しているんじゃないかと考えています」と話す。実は、ゼニガタアザラシがいるところには、昆布が多く生えているという。また、昆布が多ければ、昆布を餌としているウニの身入りもよくなるそう。そんな昆布が多い理由は、アザラシの糞尿と考えられている。昆布は、根と葉から栄養を吸収すると言われている。アザラシの糞尿は、水中でされることが多いため、糞尿が昆布の栄養になっているのではないかというのだ。
これを証明するために、糞尿の成分の調査、また、アザラシの生息密度と昆布が多く生えている状況との関係性なども調査していく予定。
小林教授は「アザラシが海に貢献している部分がわかることによって、漁師が我慢するのではなく、みんながWin-Winになれるというのが証明できたら凄く画期的だと思っています」とアザラシと漁業の明るい未来を話す。
素材提供:日本財団「海と日本プロジェクトinガッチャンコ北海道」
協力:北海道放送株式会社