福岡県にある北九州国際会議場イベントホールで、「水素燃料電池による洋上風車作業船の運航実証に関する記者発表会」が、2024年4月4日に行われました。これは「日本財団ゼロエミッション船プロジェクト」の一環です。このプロジェクトは、二酸化炭素を排出しないゼロエミッション船を、世界に先駆けて実用化するべく開発を推進。物流の99%を占め、年間排出量が世界全体で7.4億トンにものぼると言われる海運業界の脱炭素化こそ、日本政府が掲げる2050年のカーボンニュートラル実現に必要不可欠な要素です。
そこで、注目されているのが、究極のクリーンエネルギーである「水素」。日本財団ゼロエミッション船プロジェクトは、水素燃料を搭載した船舶を開発していて、そのひとつが水素燃料電池を搭載した「HANARIA(ハナリア)」です。この船は全体統括を務めたMOTENA-Seaを中心に、商船三井テクノトレード、本瓦造船、関門汽船、大陽日酸の5社が参画したコンソーシアムが開発。最大の特徴は、3つのハイブリット電源ユニットです。水素から電気を発生させる燃料電池、リチウムイオンバッテリー、これにバイオディーゼル発電機を組み合わせ、電力を供給する仕組みです。商船三井テクノトレード 水素ビジネスデザイン部の向山敦さんは「仮に水素の供給が途絶えても運航できるように、バイオディーゼルとリチウムイオンを加えて、それぞれで運航できるようなシステムを構築した。この3種の電源を使った洋上風車作業船は世界でも初の船だと思う」と言います。このHANARIAは、ゼロエミッションモードでの運航では温室効果ガスを全く排出しません。さらに「FC(水素燃料電池)とリチウムイオンバッテリーのゼロエミッションモードになった時は、本当に静かに航行できる」と関門汽船の三栗美恵子船長が話すように、環境性能と快適性の両立を実現しています。そして、今回の実証実験では、北九州市の白島(しらしま)沖にある洋上風力発電施設との往復30kmほどをゼロエミッションモードで運航することに成功しました。
記者発表会では、日本財団の海野光行常務理事が「今回のプロジェクトに関しては、トヨタ自動車が水素タンク開発などの先駆的な役割を担い、北九州市からは実証実験の場の提供などさまざまなサポートを受けた」など、プロジェクトの概要を発表したほか、向山さんから「今回の実証実験では、同等仕様のディーゼルエンジンを搭載した船舶と比較して約1700kgのCO2を削減した」といった成果を発表しました。
今後HANARIAは洋上風車作業船としてはもちろん、4月10日から観光船としての活用も開始されています。そして、日本財団ゼロエミッション船プロジェクトの今後については、2026年を目安に、水素を燃やして動く「水素専焼エンジン船」の実証実験を他2つのコンソーシアムが行う予定です。海野常務理事は「水素はどんなに燃やしても水しか出ない。全くCO2は出ないので、これからもコンソーシアムの皆さんと連携を取りながら進めていきたい」と展望を語っています。