今、フグに全国規模の異変が起きています。トラフグの取り扱い量日本一を誇る山口県下関市の南風泊市場でも影響が現れていて、下関唐戸魚市場の郷田祐一郎社長は「今シーズンから福島のトラフグが入荷しだした」と話します。福島県では、トラフグの水揚げ量が5年前は1トンに満たなかったと言いますが、ここ数年は豊漁が続いているそうで、相馬双葉漁協 ふぐ延縄操業委員会の委員長・石橋正裕さんは「段階的に増えていると実感していた。これは漁になるのではと思い、4年前から試行錯誤で行うようになり、おととしは27トン、今年は37トンの水揚げをした」と語っています。一体なぜフグが増えているのでしょうか。フグの生態について研究している水産大学校の高橋洋准教授は「福島県でトラフグが獲れるようになった原因として、海水温が少し暖かくなっているのが考えられる、魚は変温動物なので、自分の生息に適した水温帯を利用する。そのため、暖かい海域が北にずれると、それに応じて分布域も北にずれていく」と、地球温暖化による海水温の上昇が原因だと指摘しています。
しかし、水揚げ量の増加は福島県だけに留まりません。宮城県でもフグが急激に増加しているそうで、宮城県水産技術総合センター気仙沼水産試験場の総括研究員・佐伯光広さんは「フグの水揚げが近年目立っていて、2014年には6トン、2015年には29トン、2016年には75トンの水揚げとなり、以降も続いている」と話します。
さらには、北海道でもフグが増加。オホーツク海で漁を50年以上行う常呂漁協の漁師・船橋恵一さんは「主力であるホッケにカレイが獲れなくなってきて、3年くらい前からは急激にフグの獲れる量が多くなってきた」と語っています。実は、北海道のフグの水揚げは、ここ10年で増え続け、今や全国トップになっています。このようなフグの生息域の北上は、新たな問題を引き起こしています。「毒性があるものだから、そういうものはあんまり扱いたくないと思われている」と、船橋さんが語るように、問題のひとつが「増えない消費」です。フグには、調理免許が必要で、毒の処理も慎重に行わなければなりません。また、調理にも手間がかかります。そのため、北海道では大量に獲れてもフグが普及していないと言います。そこで、「地元でとれた魚を世に広めたい!」と考えた船橋さんは、調理免許を取り、自ら毒の処理をし、フグを売り始めました。今では日本料理店などで提供されています。
一方、山口県では別の問題が起こっています。それが雑種の増加です。高橋准教授は「ショウサイフグとゴマフグという異なる種の間で生まれた雑種は、尾びれが薄い黄色で、棘がゴマフグほどざらざらではない特徴がある。海が暖かくなることで、ゴマフグの分布域が津軽海峡を越えて太平洋側まで広がったのが大きな原因」と解説。フグは種類によって肝臓や皮、筋肉など毒がある部位が異なります。雑種の場合、遺伝により毒の部位が親と違うという危険性があり、厚生労働省はフグ処理者の認定基準の中で「雑種ふぐは確実に排除する事」と定めています。その雑種フグの情報について、全国規模で共有する必要があると高橋准教授は言います。「これまでは種類不明フグが水揚げされた場合には、水揚げされた地点と流通・消費された地点の都道府県の担当者間で情報共有するとなっていた。しかし、それだと安全性が確保できない。そこで、どこでどういった雑種の組み合わせが発生しているということを、フグ処理者が把握できる体制づくりを行っている。それがフグ食の安全の向上につながっていくと思う」。
素材提供:日本財団「海と日本プロジェクトinやまぐち」 「海と日本プロジェクトinガッチャンコ北海道」
協力:山口放送株式会社 北海道放送株式会社