2017年から実施されているのが、「マリンチャレンジプログラム」です。このプログラムは、「海と日本プロジェクト」の一環として、日本財団とJASTO(一般社団法人 日本先端科学技術教育人材研究開発機構)と株式会社リバネスが毎年実施。海洋分野での課題を見つけ、人と海との未来を創り出す仲間づくりのため、海・水産分野・水環境に関わるあらゆる研究をする中高生を応援するもので、研究資金助成や研究アドバイザーによるサポートが行われています。年度末には全国大会が行われ、選抜チームは約1年間の研究成果を熱くプレゼン。優秀な研究は表彰されます。そんなマリンチャレンジプログラムで過去に入賞を果たした中高生は今、一体どんな道に進んでいるのでしょう。
「トビハゼの転がる方向に規則性はあるのか」という研究テーマで、2017年度に最優秀賞を受賞したのが、高校2年生だった田中絢音さんです。そんな彼女は今、東京海洋大学の4年生(※取材当時)。当時はなぜ研究テーマをトビハゼにしたのでしょう。「高校生の時から水族園でボランティアをしていて、そこでトビハゼに出会った。トビハゼって純粋にカワイイ」と振り返る田中さんは、水族園の学芸員から「トビハゼの転がる方向について研究した人はいない」と聞き、研究をしてみようと思ったそうです。しかし、本格的な研究は、彼女にとって初めての経験でした。そこで、マリンチャレンジプログラムを主催しているリバネスから、研究のイロハについてサポートを受けたそうです。「最初に『対象に興味がわくこと』、『アプローチがキライじゃないこと』、『取り組みやすいこと』という研究テーマを決めるための3つのポイントを教えてもらい、それをもとに色々と自分の中の整理をしてもらえた」と話します。その当時の研究メモは、今でも大事に保存していて「宝物」だと言います。他にも今につながる多くのことを学んだそうで、「力になったと思ったのが、取れる記録は全部取るという精神。私はトビハゼの動画を撮り貯めていたので、それを観ながら歩く歩数を数えたりしていた。取れるあらゆる情報をできるだけ記録したことで、新しい気づきや、新しい仮説につながっていくことができた。今も、分析している中で、記録しないと見えてこなかったものに色々と気づけたりしている」と語っています。
トビハゼに入れ込んでいた田中さんですが、今は、研究者の卵として植物プランクトンの調査・研究をしています。田中さんを指導する東京海洋大学大学院・海洋科学技術研究科・浮遊生物学研究室の片野俊也准教授は植物プランクトンの重要性について「田中さんが研究している植物プランクトンは、海洋の一次生産の25%を占めていると言われている。北から南の海まで違う特性のものが分布しているが、きちんと評価することが難しい」と話します。とはいえ、なぜ植物プランクトンの研究を始めたのでしょう。「マリンチャレンジプログラムが、色んなチームの研究を知る初めての機会になり、海に対して幅広く追求していきたいと思うようになったのが最初のキッカケ」と振り返る田中さんは、そんな植物プランクトンについて、実際に海で採水し、分析や解析をする実習を行っています。「実習を通して、植物プランクトンが環境に密接につながっていることを、自分の目で見て体感して面白いと思っていて、今 興味を持っている」と語っています。
今後の進路については「大学院に進学するので、これから2年間は今やっている研究をどんどん深めていく。その後は海洋環境調査に関わっていきたい。自分の植物プランクトンは見える世界ではないので、自分が研究を通して見た世界を伝えていけたらと思う」と話しています。さらに、マリンチャレンジプログラムで、研究する中高生のアドバイザーも行っている田中さんには、もうひとつ夢があると言います。「海の魅力や面白さを色んな人に伝えたい。だから、海洋環境教育にも携わっていけたら」。
「マリンチャレンジプログラム2022全国大会~海と日本PROJECT~」は、2023年3月5日に行われる予定です。