山口県下松市では、タコの産卵期に合わせて毎年産卵用のタコツボを仕掛けています。このタコツボは、産卵期のタコの卵を保護するためのもので、2019年は2000個を産卵場所に放流しました。放流用のタコツボはロープをつけず、数年で土に戻る陶器製を使用しています。プラスチック製だと不法投棄となるためです。「土のものを使って、環境に優しいタコ壺ができたらなと思ってやっている」と話すのが、陶器製のタコツボをつくっている久野公寛さんです。
防府市末田にある登り窯で、久野さんはタコツボをつくっています。この窯は、3年前に市の文化財に指定された伝統の窯です。もともと末田地区では、大正時代に土管づくりが盛んとなり、その技術を応用してタコツボをつくっていました。しかし、軽くて耐久性に優れたプラスチック製が主流となると、陶器のタコツボは廃れることに。その結果、この窯も閉鎖される予定でした。久野さんがタコツボづくりを始めたキッカケは、この登り窯でした。久野さんは「登り窯を始めて見た時に、この窯がなくなってはいけないなと、なくならせたくないなと思ったのがキッカケ。自分がいなくなっても残るものがつくりたいなという想いがずっとあった」と言います。もともと陶芸の世界とは無縁だった久野さんは、この窯が閉鎖されることを知り、陶芸の世界に足を踏み入れました。そして、2015年から先代のもとでタコツボづくりを始め、2018年に独り立ちしました。
そんなタコツボづくりは、元になる筒状の粘土を使用します。そして、専用のろくろで形をつくっていきます。「粘土の硬さとか中に凸凹があるが、凸凹に引っ掛からないようにならしていく感じ」と、久野さんは形をつくる際のコツを語っています。タコツボは手伝ってくれている母親の尚子さんと共に、1日200個ほどつくっています。形をつくった後は、窯入れです。登り窯を1,200度ほどの温度にして焼き上げます。そんな窯入れは、年に3回から4回で、1度におよそ5,000個のタコツボを焼き上げます。久野さんは「一気にたくさん焼くが、同じ窯で同じ土で同じつくり方で焼いても、色が違うなど、1個も同じものがないので楽しい」と語っています。
そんな久野さんのタコツボのほとんどは放流用ですが、厚みや入口の形状など、注文に応じて、タコ漁のツボも手掛けています。その久野さんがつくったタコツボで漁をしているのが、下関市の小林直樹さんです。「伝統を守って、2つとして同じものがないツボをこれからも頑張ってつくっていって欲しい」と、小林さんは久野さんにエールを送っています。
ただ、全国でタコの漁獲量は減少しています(農林水産者の統計データを参考)。そのため、タコの魚礁づくりとも言えるタコツボの放流事業が各地で行われていて、今、陶器製のタコツボが見直されてきています。そんな昔ながらのタコツボづくりには、久野さんのものづくりに対するこだわりが込められているのです。「タコツボ使いやすいよとか言ってくれたり、このタコツボが良いと漁師さんが言ってくれるので嬉しい。良いタコツボだとずっと言ってもらえるように、頑張っていきたいと思う」と、今後の抱負を語る久野さんは、今日もタコツボづくりに精を出しています。
素材提供:日本財団「海と日本プロジェクトinやまぐち」
協力:山口放送株式会社