生態系

アカウミガメの産卵を守る青年団

数が減り、国際的な絶滅危惧種に指定されているアカウミガメ。
国際自然保護連合(IUCN)では、ジャイアントパンダやシロナガスクジラと同程度の絶滅危惧IB類に区分。また、また、環境省のレッドデータブックでも絶滅の危険がある生物として登録されている。

そんな貴重なウミガメだが、和歌山県みなべ町の千里の浜では、2017年120回余りの産卵が確認された。実はこの砂浜は、アカウミガメの産卵場所として本州で最大規模を誇り、研究者からも注目されている場所。みなべウミガメ研究班事務局の前田一樹さんによると、「この千里の浜は、開発もされず昔のままの姿が残っているので、カメさんもそこをめがけてやってきてくれるんかなというところですね」と話す。この海岸には、波消しブロックなどがない。波消しブロックは、ビーチの沖合に設置して、波がブロックに当たることで波を弱めビーチに届かないようにするもの。その一方で、砂は、沖合から波に運ばれてビーチに届くため、消波ブロックで波が届かなくなると砂が届かなくなる。そして、逆に、波でビーチの砂は削られるばかりになり、砂浜が小さくやせてしまう「浜やせ」という状態になってしまう。浜やせで砂が無くなってくると、砂利の多い浜になって来ることもあり、ウミガメの産卵に適さない砂利の浜になってしまうという。しかし、千里の浜は、波消しブロックどころか堤防もない。そのため、大きな浜が自然のままの状態で保たれていて、多くのアカウミガメが産卵に帰ってくるのだ。

そんなウミガメの産卵はとてもデリケートなもの。ライトの光や見学する大勢の人達などが、強いストレスとなる。その結果、産卵を止め、海に戻ってしまう場合もあるという。そこで、産卵環境を守っているのが、みなべウミガメ研究班。地元の青年団などが中心となって組織し、みなべ町教育委員会が事務局を務めている。5月末からの産卵シーズンには、メンバーは手分けをして砂浜のパトロールを行っている。

また、みなべ町では、産卵の見学を届出制に。
さらに、見学者が多い時には、人数を絞るため日程の変更をお願いすることもある。こうしてウミガメが産卵しやすい環境を守っている。このように、カメの専門家ではない地元住民が、産卵場所の保全にボランティアで取り組んでいるのは、他に例がないと言われている。前田さんは、「1頭の産卵を、100人が取り囲んで静かに見守るというのは、まず不可能なんですよね。ウミガメの産卵を多くの人に知ってもらいたいですが、産卵に来たカメさんに迷惑のかからないようにもしていきたいです。難しいところですね」と話す。

アカウミガメが安心して産卵できるよう、これからもみなべ町の人達は、影で支え続ける。

素材提供:日本財団「海と日本プロジェクトin和歌山県
協力:株式会社 テレビ和歌山

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