有明海には神業と言われる伝統漁法がある。それが、ムツかけ漁。
この漁は、有明海に生息するムツゴロウを一瞬で釣る漁。操る竿は、なんと全長5メートルほどもある。「ムツかけというのは、だいたい10年やって一人前と言われるぐらい難しいですね。静かに、ムツゴロウに動いている気配を感じさせずに竿を回す。それに、ムツゴロウは力を入れると針が刺さらないんです。でも、それも楽しい」そう語るのが、ムツかけ漁師の岡本忠好さん。岡本さんは地元でも有名なムツかけ名人で、この道40年のベテラン。
しかし、今や岡本さんのようなムツかけ漁師は少なくなり、消滅の危機に。その原因とは?鹿嶋市干潟展望館の主任研究員の中村安弘さんによると、「自分達の目の前で取れている海の幸をみんなが食べなくなった。それによって後継者不足が起きています」と話す。有明海には、ムツゴロウを使った蒲焼きや甘露煮といったこの地ならではの郷土料理が数多くある。しかし、食生活の変化によって食べる人が減少。その結果、海の幸を提供する漁師にも関心が薄くなってしまったという。
そのため、ムツかけ漁師は、最盛期の昭和40年代には5,60人ほどいたが、今では、たった4,5人にまで減ってしまった。
そんな中、ムツかけ名人・岡本さんの願いは、「皆さんがムツゴロウをたくさん食べてくれることです。食べてもらえれば、漁師も増えると思うんですよね」と語る。
食生活の変化の波によって、伝統漁法は岐路に立っている。
素材提供:日本財団「海と日本プロジェクトin佐賀」
協力:株式会社サガテレビ