●海・川でのまさかにそなえる!最新の実践型教育プログラムがスタート
毎年、暑い季節になると繰り返される海や川での水難事故。「自分は大丈夫」と思っていても、ほんのわずかな気の緩みが大きな事故へとつながります。そんな“まさか”の水難事故を防ぐため、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として活動している「海のそなえプロジェクト」は、これまでに起きた水難事故の件数などをまとめ、本格的な夏に向けて警戒を呼びかけています。そして、今シーズン新たに取り入れたのが、「カヌスラで海そなえ!」です。東京オリンピックの競技会場だった「カヌー・スラロームセンター」で行われているこの教育プログラムの最大の特徴は、海や川の水の“流れ”を再現していること。指導にあたっている日本ライフセービング協会の副理事長で教員でもある松本貴行さんが、「溺水事故は“流れ”が起因している。これは海で言うと離岸流であったり、沿岸流であったり。川は言うまでもなく流れがある場所。こういう流れを疑似的に体験できる」と説明している通り、施設の流水設備を活用することで、通常のプールでは難しい“流れ”という溺水事故が発生しやすい状況を安全に疑似体験できます。松本さんはこの流れの体験の重要性について「しっかりと実践を通じて学ぶのは体にしみつきますし、頭の記憶にも残りますし、いざという時に焦らない自分をつくれる」と語っています。
●ライフジャケットを着て“浮く”ことから始まる基本のそなえ
この日は、午前と午後にわたり、約50人の親子が「海」のプログラムを体験。まずは、ライフジャケットの正しい着方を教わり、ヘルメットを被り、流れのないエリアで“浮く”ことからスタートしました。そして、「8の字を描いて水を撫でてみてください」、「仰向けになってイカ泳ぎ」などといった松本さんの声かけに促され、さまざまな浮き方や楽に泳げる方法を学びました。
●もしもの落水にそなえる!パニックを起こさないためのリアル体験
続いて行われたのは、海へ落ちてしまった場合を想定した体験。子どもたちは勇気を出して流水へと飛び込みます。松本さんは「ライフジャケットは落水した時の衝撃をやわらげる力がある」、「落ちた時に一瞬沈むが、ライフジャケットを信じて。すぐ浮くから」、「(浮いたら)イカ泳ぎ。これはライフジャケットを着ている時に、安全に体力を使わずに移動する泳ぎ方」と丁寧に説明。子どもたちは、このような体験と知識からライフジャケットの有効性と必要性を肌身で感じながら、対応方法を学びました。
●1秒で2メートルも流される!?離岸流の怖さと対処法
そして、いよいよ本格的な“流れ”の体験へ。ここで再現されているのは「離岸流」です。「速いところでは1秒間に2mも流されてしまう」と松本さんも警鐘を鳴らしている離岸流は、沖へと向かう強い流れ。海水浴場での溺水事故の約半数(自然的要因)がこの離岸流によるものです。松本さんは「海で、もしライフジャケットを着ていなかったら、どんどん浜から離れていく。これは怖い。こういうのも疑似的に体験しておこう」と子どもたちに語りかけます。事前にこのような体験をすることで、子どもたちも冷静に対応できるようになると言います。プログラムではほかにも、離岸流に逆らって泳ぐことで流れの強さを体感したり、川の流れがある中で対岸まで泳ぐ難しさを体感。プログラムを体験していくうちに、最初は水に飛び込むことを怖がっていた子どもたちも次第に慣れ、楽しみながらも、命を守るために必要な海へのそなえを学ぶことができたようです。「流れが強くて、ちょっと最初は怖かったけど慣れれば大丈夫だと思えるようになりました」、「離岸流があったら、真っすぐ進めないから斜め45度に進まないとダメと教わりました」
●指導者にとっても貴重な機会。川で命を守るための知識と技術
そなえが必要なのは、海だけではありません。このプログラムでは、指導者向けに「川」のプログラムも実施。川の流れからの離脱方法や、急流に流された際の対処法など、実践的な内容が行われています。見学に来ていた日本水難救済会の理事長・遠山純司さんは「実践的に体験できる効果的な施設だと思う。海あるいは川で身を守るために非常に効果的なプログラムだと感じた」と話しています。
「カヌスラで海そなえ!」は、9月11日まで定期的に開催中。海や川で遊ぶときには、知識・技能・行動・装備といった「事前のそなえ」が何よりも大切です。夏を安全に楽しく満喫するために、こうしたプログラムに参加してみてはいかがでしょうか。