海の体験機会づくり

【後編】学生による海と食の未来を考える期間限定レストラン。オープンまでの3カ月~「THE BLUE CAMP」~

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都内に、「THE BLUE CAMP」の学生たちが出店した期間限定のレストランが、2024年8月6日から8月11日までオープンしました。THE BLUE CAMPは、海に深い関心を持つ学生たちが料理界で活躍するトップシェフたちと共に、海が抱える問題とその先の未来を考え、実践していくプログラムで、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として行われています。2年目となる今年も東京と京都の2か所で同時開催されました。

東京チームのコンセプトは、店名にもしている「あおのいま」。海や漁業、流通などの“いま”を表現したのだそう。開店と同時に接客に出たのは、チーム最年少の高校生・伊藤沙織さんです。「国産のタコの漁獲量は激減してしまっていて、現在は輸入タコが半分を占めています。魚を普段から食べていても知ることのない事実があります」と紹介するなど、魚が減ってしまっているという現実をリアルに感じてもらうため、ウェイティングルームを「売る魚がない魚屋」という形にして伝えました。

そして、料理は、前菜、揚物、お膳、デザートという4品のコースです。前菜には資源量の変動が激しいイワシを使用。養殖用の餌などに使われたり、食用以外での利用が多かったりするイワシを和食として食べ続けることの重要性を伝えています。続いて2品目は、キッチン担当の野澤悟志さんがこだわった「黒鯛の米粉揚げ 夏野菜あん」。近年、食害をもたらす魚として問題視されているクロダイを食材に選びました。「クロダイのところは本当に試行錯誤して、添える夏野菜の素揚げも、どれが最もクロダイを引き立てつつ、夏の感じを出せるかにこだわりました」と野澤さんは語っています。そして、ホール担当の野口さんと安永さんは、料理の背景となっている海の“いま”を会話の中で伝えていきます。クロダイでは「クロダイは食害をもたらすと言われていて、海苔を食べてしまう魚。なので、漁師さんたちからすると嫌われ者」と3カ月で学んだことを説明していました。そして、コースのメインは「マグロづくし御膳」。マグロは国際的な資源管理が効果を上げ、数が順調に戻ってきている魚です。とはいえ、資源管理は国単位のルールの中で行われるなど、ある意味で大きな世界の話です。では、いち消費者としてどんな行動が求められるのか、それについて安永さんは「意識を持った行動をして欲しいというのはありますが、具体的にどういう行動がいいのかわからないとずっと考えていて、なかなかこの3カ月では答えが見つからず」と、その“もやもや”を率直に語りました。最後はデザート。「ミリン」という赤い海藻を乗せた水ようかんです。かつてはよく食べられたというミリンも、藻場の減少とともに、今はほとんど忘れられた食材になっているそうです。

持続可能な海と食を表現したコース料理を提供した東京チーム。これだけで終わりではなく、おしまいに小さなサプライズも用意していました。食事を終えたゲストが、ウェイティングルームの“魚屋”を通ると、そこには活きの良い魚たちが戻っていたのです。フロアを担当した田中大輔さんは「資源管理を伝えることはすごく無責任な気もしました。結局は行政マターなのではないかとか。自分たちでどんどん疑問や葛藤が生まれてきて。その思考のプロセスを“葛藤”というダンボールに書きました」などとプレゼン。そのプレゼン内容について野口さんは「答えがひとつ出てきても『それはやはり違うんじゃないか』となってしまう。でもその“もやもや”の葛藤に、別にひとつの解を出さなくてもいいのかなと思って、お客さんも一緒に悩みましょうというテンションでいこうと考え、最終的に“葛藤”というボードになりました」と話しています。ひとりの客として店を訪れた日本財団の海野光行常務理事は「まず料理がすごくおいしかった。最後のプレゼンテーションもすごく心に刺さるものがあり、彼らが言っている“もやもや”というひとつのキーワードについて、自分自身に対しても、もやもやして欲しいし、他の人たちのもやもやも解決できる、もしくはもっと“上のレベルのもやもや”を考え続けられるようにしてもらいたい」と語っています。

そして、濃密な3カ月をともに過ごしてきたのが、伴走してきた和食料理人の林さんと堀内さんです。ふたりにはさまざまな思いがあったようです。林さんは「(彼らはすでに)同志ですよ。今までの既存の料理業界の上下関係ではない新しいカタチが間違いなくあって、新しい感性とかエネルギーを毎日感じている」と言います。堀内さんは「彼らに最後は人に伝えたい経験として心に残って欲しいと思って伴走してきた。何年かしたらそれぞれの分野でバラバラになるだろうけど、このチームで学んだことを各分野へ持っていって、伝えていって欲しいと思う」と学生たちにエールを送っています。さらに、キャンプ長の佐々木ひろこさんは「(彼らには)いろんな葛藤があると思う。それをこのプログラムを卒業した後に、自分たちの道の中で見つけていってもらえれば、このプログラムの意味があるのかなと思う」と、THE BLUE CAMPを通じての思いを話しています。

海と食の未来を見つめ、考え続けた3カ月。彼らの心の“もやもや”がいつか晴れる日は来るのでしょうか。

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