海の体験機会づくり

【前編】学生による海と食の未来を考える期間限定レストラン。オープンまでの3カ月~「THE BLUE CAMP」~

学生が企画・調理・運営の全てを行った期間限定のポップアップレストランが、2024年8月初旬にオープンしました。このレストランは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として行われたプログラム「THE BLUE CAMP」の集大成です。

このプログラムは、東京と京都の2か所で開催。選抜された15人の学生が、料理界で活躍するトップシェフたちのもとで海と食の未来について学び、考え、実践します。2年目となる今年のテーマは「和食」。Chefs for the Blueの代表理事で、このプログラムのキャンプ長を務める佐々木ひろこさんは「海の恵みは和食と切り離せない。学生たちにとってもイメージしやすい分野だと思う」と和食にした理由を語っています。

この日は、3カ月の学びを伝える場としてオープンするレストランの初日。コンセプトから料理の内容まで、全て学生たち自身でつくり上げてきました。そのうちのひとりで今回ホールを担当したのが、野口絵子さんです。野口さんは慶応義塾大学の2年生で、お父さんは有名な登山家。幼い頃から海よりも山に親しんできました。「海は泳ぐの苦手なんです。山が好きな分、海が怖くなって。でも、もっと環境・地球全体を見てみたいと思ったので、今回は全く未知の世界の海のプロジェクトに参加しました」と、THE BLUE CAMPに参加したキッカケを話しています。そんな野口さんが3カ月を通して最も印象に残っていることは「合宿の時に、もう昆布が取れない、昆布がなくなったら和食がなくなるという話が一番印象的でした」。そう話したのは、6月初旬に行われたキックオフ合宿。東京と京都の学生たちは静岡県伊東市に集まり、この地に伝わる伝統漁法の定置網漁を間近で体験しました。城ケ崎海岸富戸定置網の代表取締役・日吉直人さんは「私の網は150年の歴史がある。時代が証明した持続可能な漁業。歴史ほど証明できるものはない。ちなみに、もっと古いのが、日本海の大謀網(だいぼうあみ)という定置網で獲った塩ぶり。豊臣秀吉の時代に聚楽第に塩ぶりを送ったというのが一番古い文献に出てくる。約400年ちょっと。そのくらい歴史があるということ」と紹介。そして、漁師として日々、海の魚と向き合う日吉さんは、学生たちに「魚が(今もたくさん)いれば恐らく言わなかったと思う。僕も獲りたいから。けれども、(このままでは)僕の時代はいいが、君たちの時代やもっと先の時代には本当に魚が食べられなくなる」と資源管理の重要性を熱く語りました。

そして、キッチンを担当した内のひとりが、野澤悟志さん。大学では政治経済を学びながら個人で料理の勉強もしているのだそう。シェフになることを夢に抱き、このプログラムの門を叩きました。そんな彼がこの3カ月で印象的だったことは「レストラン研修が自分料理人を目指す身としては印象に残っていて、どの料理もテーマが練られている。背景がすごい考えられている料理でした」と語っています。THE BLUE CAMPでは、当代一流のシェフたちが学生に寄り添い、共に3カ月を過ごします。日本料理「てのしま」の店主・林亮平さんはミシュランの星付き料理人で、学生たちにとっても雲の上の存在です。そして、もうひとりは、サスティナブルな食材を全国から集め、和食のこころを追求し続ける「御料理ほりうち」の堀内さやかさん。このトップシェフ2人のお店で、レストラン研修が行われました。「日本料理でいう旬のハモ。実は問題があって、7月頃からハモはお腹に卵を持ち始める。あえてサスティナブルでもなんでもないが、これから日本料理で旬と言われるハモを用意した」と、堀内さんは和食の要である“旬”について、あえて葛藤を促すような料理を提供し、彼らの舌とこころに刺激を与えました。野澤さんはこうしたレストラン研修で「ひとつの料理にいろんな思いを考えて、それを料理で表現する方法などに強く感動しました」と振り返っています。

フロアを担当したひとりは、高校生の伊藤紗織さんです。彼女は、学校では生徒会に参加するなど、積極的に周囲を引っ張るタイプとのことですが、東京チームでは最年少。なぜTHE BLUE CAMPに参加したのか、その理由について伊藤さんは「自分より年齢が上であるとか、知識が豊富な人たちに囲まれた環境で自分が動いてみたいと思い、THE BLUE CAMPに参加しました」と語っています。物怖じしない性格はここでも健在なようで、企画会議などでは積極的に意見を出しました。「全員で集まって冊子や設えを詰めていった期間が自分の中ですごく心に残っていて。海について愛や知識が深まったと同時に自分自身について考える時間も多かったです」と振り返っています。

学生たちが全力で取り組んだ海の“いま”の3カ月。学び、語り合うほどに彼らの心の中には何か釈然としない“もやもや”が広がっていったそうです。「魚食文化である和食を未来につなげていくことは、資源を管理し魚を守る必要があります。けれども、一般の生活者にできることは限られているのでは」という“もやもや”を彼らはあえて心に残したままレストランオープンの日を迎えました。

後編に続く

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