近年、鹿児島湾の姶良市沿岸では、繁殖期の夏場になると、大群となったエイがエサを求めて押し寄せています。中でも、ナルトビエイは、もともとインド洋など南の海に多くいるエイですが、2009年ほど頃から、鹿児島湾に姿を見せるようになったと言います。その原因のひとつとして考えられるのが、地球温暖化による海水温の上昇です。実際に、鹿児島県水産技術開発センターの観測によると、鹿児島湾の海面付近の平均水温は、1980年からのここ35年間で、約0.5℃から1℃上昇しています。
そして、増加したエイによる被害のひとつが、アサリへの食害です。かつて、姶良市の重富海岸には、たくさんのアサリが生息し、毎年、数万人の潮干狩り客でにぎわいました。しかし、平成に入り、アサリが激減してしまいました。増加したエイがアサリを食い荒らしているのが、原因のひとつとみられています。そのため、重富海岸では現在、潮干狩りが禁止されています。
さらに、被害は食害だけではないと言います。錦海漁協の組合長・栫健一さんは「網などの漁具自体が破られたりして被害が発生している」と嘆いています。エイは漁業用の網を破ることもあり、また、トゲには毒まであります。その上、水揚げ後、時間がたつと臭みが出るため、漁で取れてもほとんどが廃棄されています。
そこで、2018年の秋から、姶良市特産品協会が、エイを水産資源として活用しようと取り組みを始めました。姶良市特産品協会の会長・山崎司さんは「『姶良市に来ればエイが食べられるよ』というのが、特産品協会の目的。みんながエイの存在を知ってくれれば非常にありがたいなと思っている」と話しているように、新しい料理を開発し、特産品化につなげようと知恵を絞っているのです。
そこで、注目したのが、「灰干し」です。これは水分や臭みを抜くため、魚の身を桜島の火山灰で挟む干物の手法で、キビナゴやアジ、エビなどのほか、鶏肉などで用いられています。そんな灰干ししたエイの身を使い、特産品協会の趣旨に賛同した姶良市の6つの飲食店が、新しいエイ料理を考案しました。試食会では、チリソースや南蛮漬け、から揚げなどが登場し、試食した人からは「全然においとかも無くて、すごくおいしい」と好評でした。そして2019年10月には、鹿児島中央駅前で開かれた物産展で、エイのから揚げを使ったトルティーヤが試験的に売り出されました。食べた人たちは「魚感がなくてすごくおいしい」、「油っぽくないのでヘルシー」、「おいしくてビックリした。普段は環境を意識することはないが、こういうのを食べる機会に考えられたので、すごくよかった」というように絶賛していました。こうしたエイを活用した料理は、2020年1月から姶良市の小中学校の給食でも提供されました。さらに、今後は、姶良市の飲食店などでの取り扱いを広げていきたいそうです。山崎会長は「私たちも新しい特産品としてエイが広がっていけばありがたいし、環境問題としてエイを捕獲できるということもいいなと思う」と語っています。
素材提供:日本財団「海と日本プロジェクトin鹿児島」
協力:株式会社南日本放送