●理化学研究所・相田卓三氏らが開発した「海に溶けるプラスチック」とは
塩水につけると分解されて原料に戻っていく「海に溶けるプラスチック」が開発されました。「分子まで戻っていくのでプラスチックではなくなる。つくる時に使った原料の小さな分子に戻っていく」と話すのは、このプラスチックの開発を率いた理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発ソフトマター機能研究グループディレクター・相田卓三さん。東京大学で卓越教授の称号を持つこの分野における第一級の研究者です。「(研究の)一番の目的はいま問題になっているマイクロプラスチックをつくらないということ」
●マイクロプラスチックをつくらない!温室効果ガスも出さない!耐久性も従来と同様!次世代型のプラスチック
深刻化する海洋プラスチック問題。年間およそ800万トンものプラスチックが海に流れ出ていると言われ、国連でも世界初となる国際規制が度々協議されています。特に細かく砕けたマイクロプラスチックは、海洋生物の体内に蓄積されることなどから、さまざまな問題を引き起こす可能性が懸念されています。こうした中で開発された画期的な「海に溶けるプラスチック」。海の中で分子レベルの原料にまで分解されるので、マイクロプラスチックになることはありません。一方で、表面をコーティングすることで溶けなくすることもできます。相田さんは「普通のプラスチックとして使えて、海水がきたら溶けるものに変えたいということが初めて可能になった」と解説。さらに、このプラスチックは室温で生成できるため、製造過程で温室効果ガスを排出することもありません。それでいて耐久性などは、従来の石油由来のプラスチックと同等なのだそう。
●サイエンス掲載時からさらに進化!石油よりも多い“セルロース”から製造可能
この研究が、世界で最も権威のある科学誌のひとつ“サイエンス”を通じて発表されたのが2024年11月。2025年9月現在、さらに進歩しています。「地球上で最もたくさん存在する素材“セルロース”が原料として初めて使えるようになった」と相田さんが説明。石油よりも遥かに多い物質が原料として使えるようになることで、製造コストが下がることも期待されています。
●「次世代に何を残せるのか」──相田氏が語る使命感
プラスチックの歴史的転換点となるかもしれないこの「海に溶けるプラスチック」。長年にわたりこの分野で研究を続けてきた相田さんには、開発にかける強い思いがありました。「科学の研究者として、海洋プラスチック問題や、プラスチックの焼却処分が地球温暖化の要因にもなっていると考えた時に、このままにしていったら、次世代の子どもたちに一体なにが残せるのかと深刻に考えるようになった。それで最終的に何かひとつのことをやりたいと思った」
相田さんが人生をかけて挑戦する「海に溶けるプラスチック」。海の課題を解決する夢の実現は、そう遠くない未来に訪れるかもしれません。





