大阪湾の淀川河口付近に現れた「淀ちゃん」や、東京湾でもクジラが相次いで目撃されるなど、クジラが大きな話題となっています。そんな中、千葉県南房総市の和田浦海岸で、「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト」の取り組みとして、クジラの骨格標本掘り起こしと3Dデータ化が、2023年1月28日と29日に行われました。
2016年3月、南房総市内の防波堤に、体長およそ9メートルのクジラの死がいが漂着。調査の結果、絶滅が危惧されているコククジラの子どもと判明。その後、この希少なクジラの骨格標本をつくるため、解体して海岸の砂浜に埋められました。これは数年かけて骨についた肉が砂の中で分解されるのを待つという手法です。そして、今回7年ぶりに掘り起こして標本化することとなったのです。クジラの専門家で東京海洋大学・海洋環境科学部門の中村玄助教は「日本全体を見ても、標本は10個体未満しかない。そこにひとつ追加できるというのは非常に意義がある」と言います。
今回の取り組みには、「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト」の1期生と2期生の計16名も参加しました。このプロジェクトは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として活動し、最新の3D技術を活用した海洋生物の研究を通じて、将来さまざまな分野で活躍できる人材の育成を目的としています。今回、生徒たちは泊まり込みでクジラの掘り起こしに参加。1期生で中学2年生の萩原一颯さんは「あまり体験したことがない経験なので、楽しんでやりたいです」と意気込みを語りました。そして、生徒たちは、掘り起こした後、出てきた骨のひとつひとつを3Dスキャナーで計測。中村助教によると「3Dになると非常に多くのデータが取れる。データ量が多いとそれだけできる研究の幅が広がる。例えば、日本とアメリカの標本をそれぞれ3D化して、3Dプリンタで縮小印刷すると、お手軽に手のひらサイズで比較することができる。これによって、形の違いも顕著にわかるだろうし、研究のインスピレーションも沸くと思う」と3D化のメリットについて話しています。掘り起こしと3D化を体験した1期生で研究テーマがミンククジラだった岡本結和さんは「東京海洋大学にある全身骨格を見ていた時には重さなどが伝わってこなかったけど、実際に肋骨とかを持ってみると、こんなに重いんだと感じた。この骨が生きていたことが伝わってきて嬉しかったし感動しています」と語っています。また、2期生でラブカを研究している小柳遥雅さんは「骨ってすごく大事だなと感じたので、ラブカの内部も再現して出力したいと思います」と、もうすぐ行われる卒業発表に向けて刺激になったようです。プロジェクトの主任講師で吉本アートファクトリー代表の吉本大輝さんは「掘り起こしたものをその場でスキャンする、研究と技術を使って同時に行っていくことが今後は世界のクジラの研究のスタンダードになると思うので、生徒たちはそれが最前線で学べたと思う」と話しています。
2日間に渡る掘り出しとスキャンによる3Dデータ化は、2月中に完成する予定です。