テクノロジー

無人運航船プロジェクトが第2フェーズへ~MEGURI2040における実証実験・後編~

日本財団が推進している無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」では、無人運航技術の実用化に向けて、5つのコンソーシアムが小型船、大型船、コンテナ船の実証実験を2022年1月から実施しました。小型船では旅客船、水陸両用船において、世界初を含む様々な実証実験に成功。
(前編はこちら)

大型船の分野では、全長222mの旅客フェリー「それいゆ」が北九州の港から無人運航実験に挑みました。その結果、極めて難易度が高い回頭や後進を伴う入出港の自動化、さらに、最速26ノット(時速50km)という高速無人運航に成功。この2つの技術の実証は世界初となりました。コンソーシアムの代表である三菱造船の主席技師・森英男さんは「離着岸の自動操船システムにAIを利用している。これはあまり例がないと思う」とシステムの特徴について話しています。また、苦労した点について、新日本海フェリー・大阪本社海務部次長・恒川郁雄さんは「人間が操船する船舶が多数いる中に無人運航船が入っても、違和感なく交通の船舶の流れを乱さないような走り方をさせるというのが最も苦労した点」と振り返っています。そして、この実験の日、それいゆを担当した船長は無人運航船に期待と不安があると言います。「海難事故の約8割がヒューマンエラーによるものだと言われている。システムは計画性や正確なところを走るという意味では人よりも優れたものがあると思う。一方、瞬時の判断というのは人の方が優れていると感じている。人とシステムがうまく融合すればヒューマンエラーも減り、他船にも不安を与えない操船ができると期待している。ただ、若い船員がシステムに頼り切ってしまわないかという不安もある」。

また、長距離定期航路で実験に臨んだ大型船が「さんふらわあ しれとこ」です。北海道・苫小牧港と茨城県・大洗港を結ぶ約750kmを18時間かけて無人で航行。連続自動航海の実証実験としては、世界最長距離・最長時間という快挙を成し遂げました。コンソーシアムの代表である商船三井のスマートシッピング推進部・スマートシップ運航チームリーダー・鈴木武尊さんは「昼と夜、漁船が出てくる出てこないといった色んなシチュエーションがあるが、短い距離で限られた海況であれば対応できるものでも、長距離になった時には出来ない。しかし、今回我々の技術では750km通してできた。それは結構な成果だと思う」と語っています。

コンテナ船でも実証実験が行われ、そのひとつが福井県・敦賀港から鳥取県・境港を航行した「みかげ」での実験です。現役の商用コンテナ船による無人運航は世界で初めての事例となりました。このコンソーシアムでも代表を務めた商船三井の鈴木武尊さんは「冬の日本海の荒天の中、無人運航を最初から最後までできた。世界でもこれだけ厳しい環境で無人運航をやった実験はないと思う」と言います。さらに、着桟時には、こちらも世界初となるドローンを使った係船補助作業まで行われました。

そして、6つの実証実験の中でも最大規模となったのがDFFASコンソーシアムによるコンテナ船「すざく」での無人運航です。DFFASコンソーシアムは、国内外から60もの事業体が参加する巨大組織で、実験では無人運航船の実用化を模擬したものを行いました。その特徴のひとつが千葉県・幕張に立ち上げた「陸上支援センター」。通常は船の上で行う気象・航路の情報収集や機関状態のモニタリングなどを陸上支援センターで行うほか、非常時には遠隔操船も可能となっています。実験では東京湾~伊勢湾を往復し、総航行距離は約790kmにも及びました。さらに、東京湾は出入りする船が1日あたり500隻ほどという世界有数の輻輳海域ですが、そんな航路の中でも「往路97.4%、復路99.7%」という驚異の無人運航率を達成し、世界初の事例となりました。DFFASコンソーシアムでプロジェクトリーダーを務める日本海洋科学・運航技術グループ長の桑原悟さんは「今後もコンソーシアムを継続して、さらに一段上 二段上の技術を開発していきたい。また、メーカーの努力に報いたいと思っている。マーケットの創出など開発がもっと楽になるようにもしていきたい」と今後について語っています。

6つの実証実験を成功させたMEGURI2040は、その成果を日本最大の国際海事展「Sea Japan」で発表しました。日本財団の常務理事・海野光行さんは「世界初の取組みということで、国内外で1000以上のメディアに取り上げられてもらうなど高い関心を得た」と発表。しかし、「まだ達成度は0%。あくまでも実証実験が終わった段階で、まだ実装はされていない」と言います。そのため、今後について「2025年の実用化に向けて第2フェーズに入っていきたい。今まではオールジャパンでやってきたが、今後は技術力を高めていくために海外の先進技術を一部流用することも選択肢に入れるなど、“コアジャパン”で取り組んでいきたい」と語っています。無人運航技術の確立を目指すMEGURI2040の挑戦は、まだ始まったばかりです。

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