日本は海に囲まれている国ですが、海離れが深刻化しています。その解決の鍵となるのが、次世代を担う「高校生」です。日本財団が2024年に行った第4回「海と日本人」に関する意識調査によると、高校生は全世代の中で海に最も関心があるという結果に。そこで今回は、海にまつわる取り組みをしている高校生を取り上げます。
一般社団法人とやまミライラボと株式会社バンダイがコラボレーションして開発したのが、「富山湾おさかなドンジャラ」。これは、子ども達に富山湾の環境や魚について遊びながら学んでもらう教材として販売しているもので、この取り組みは日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。おもちゃメーカーであるバンダイは、これまで数々のドンジャラシリーズを販売してきましたが、教材としてつくるのは今回が初めてとのこと。そのパイに描かれているのは、富山湾に住むさかな達。そのデザインを手がけたのは、富山北部高校情報デザイン科の生徒たちです。
この日は、およそ3カ月かけて制作してきたパイとのご対面。富山湾を代表するブリやホタルイカなど15種類のさかな達を描きました。そのデザインには、さかなの生態や旬の時期を見て学べるように工夫がこらされています。例えば、産卵期に姿が変わるサクラマスは、その生態に合わせて2パターンの絵柄を用意。生徒は図鑑で調べたり、水族館で実物を観察したりして、力を入れて制作しました。情報デザイン科の小川桜夜さんは「さかなの特徴にもこだわって制作しました。そこに気づいてもらいながら楽しく学んでもらいたいです」と話しています。このドンジャラは県内の全小学校や学童施設などに配布され、遊んで学ぶ海洋教育の教材として使われています。
お隣の福井県には、海洋を軸にした専門教育を行う高校があります。それが小浜市にある若狭高校です。この学校には普通科のほかに「海洋科学科」があり、生徒たちは海の環境や地域の資源などをテーマにした「探究学習」に取り組んでいます。2年生探究担当の中村恵美莉先生は「海洋科学科の特色である海を『好き×海』という形で活かそうと、好きなことと海をつなげて地域の課題に取り組んでいる」と説明。実際に成果も出ていて、2018年には生徒たちが開発したサバの缶詰が、宇宙で食べる「宇宙日本食」としてJAXA(宇宙航空研究開発機構)の認証を受け、話題となりました。そんな海洋科学科の生徒たちは今、どんなことに取り組んでいるのでしょう。
男子生徒5人のグループが取り組んでいるのが、日本とフィリピンの海洋ごみの比較。フィリピンの提携校と協力し、国際的な視点から海洋ごみ問題を探究。生徒たちは小浜湾の海水を採取し、どんな海洋ごみが含まれているか調査したりフィリピンの高校と取り組みのアイデアを出し合ったりしています。盛下陽向さんは「海ごみは世界共通の問題なので、フィリピンや台湾などの海外の人と連携して海ごみ問題を解決していこうと思っています」と意気込んでいます。
女子生徒3人のグループが取り組んでいるのが、福井県の郷土料理「へしこ」づくりです。井上陽菜さんは「(地元の)三方五湖で鯉がとれていますが、その鯉が大きすぎて消費に困っていると漁師さんにお聞きし、その鯉を使って三方の特産品を増やそうと取り組んでいます」と活動内容を話しているように、リアス式海岸にある三方五湖の鯉を使い、「へしこ」をつくろうと試行錯誤中です。一般的な糠(ぬか)だけではなく、うなぎの骨を粉にして混ぜた糠に漬け込んだり、福井県立大学海洋生物資源学部と連携して研究したりしています。同大学の細井公富准教授は「高校生が水産物に興味を持ってもらって、高校の段階から色んな研究をしてもらうのは、我々にとっても非常にありがたい。一緒に取り組むのは有意義なことだと思う」と海に取り組む仲間が増えることを大歓迎しています。
地域の特性や海の課題と結びついた高校生たちの主体的な取り組みが、周囲の大人たちを巻き込みながら、社会にとって有益な何かを着実に生み出しています。
素材提供:日本財団「海と日本プロジェクトin富山県」 「海と日本プロジェクトinふくい」
協力:富山テレビ放送 福井テレビジョン放送