日本財団は、ゼロエミッション船を推進するシンポジウムを、2021年5月18日に開催した。ゼロエミッションとは、二酸化炭素を排出(emission)しない(zero)技術のこと。日本では、菅義偉首相が2020年にカーボンニュートラルを宣言し、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すことが発表されている。その実現に向けた取り組みの1つとして注目されているのが、「水素エネルギー」。水素は酸素と反応させると電気と水が発生し、電気はエネルギーとして利用できる。さらに、水素エネルギーは利用の際に二酸化炭素を排出しない。そのため、すでに自動車などで利用されているように、水素エネルギーを利用した「水素社会」実現への取組みが広がりつつある。
船舶の分野では、内航船の二酸化炭素排出量が約1,100万トン(2018年)にも上るため、脱炭素化の動きが広がっている。そこで、様々な船舶事業に取り組んでいる日本財団が主催したのが、水素やアンモニアなどを燃料に使う次世代の船「ゼロエミッション船」を推進するシンポジウムで、特に注目されている「水素エネルギー」について、国や企業が参加し、発表・議論が行われた。株式会社e5ラボは、開発中のゼロエミッションEV船や水素燃料電池船などについて発表。また、川崎重工業株式会社、ヤンマーパワーテクノロジー株式会社、株式会社ジャパンエンジンコーポレーションの3社は、世界に先駆け船用水素燃料エンジンの共同開発を行う新会社「HyEng株式会社」を共同出資で設立することを公表した。そして、日本財団は、内航船におけるゼロエミッション船の普及ロードマップを発表。ゼロエミッション船に代わると、2050年には水素エネルギーの利用が半分以上になると予測、日本全体で約2兆3,000億円の経済効果が期待できるという。
一方で、水素などの次世代燃料への転換は、「コストが高い」「インフラが整っていない」などの課題がある。そこで、シンポジウムでは、その課題解決のためのパネルディスカッションも行われた。株式会社e5ラボのCDO・神内悠里氏は、炭素税などの導入を提案。「ゼロエミッション船は製造コストが高いため採算がとれない。ここに大きな壁がある。しかし、炭素税や排出権取引を導入すれば、ゲームチェンジが起こり、経済性が上がる可能性がでてくる。内航海運全体を巻き込むために炭素税などが必要だと考えている」と神内氏は話す。
日本財団は、このようなシンポジウムを行うだけでなく、様々な後押しをしていきたいという。日本財団の常務理事・海野光行氏は「今後、プラットフォームを構築したい。また、政府が補助制度をつくっていくと思うが、抜け落ちてしまうところもあると考えている。そこをサポートするような支援の枠組みも検討する」と話す。さらに、「海と日本プロジェクト」といった様々な海洋事業を展開しているため、「ゼロエミッション船という船の最先端プロジェクトの実情を子ども達に知ってもらい、この先の海がどうあるべきか、どう利用すべきかを考えてもらえるような取組みを、海と日本プロジェクトで実施できたら」という展望も語った。
<動画後半でナレーションに一部誤りがありました。「断続的」と読んだ箇所について、正しくは「継続的(けいぞくてき)」です。お詫びして訂正いたします。>